既存地域メディアは「政治」と「経済」を伝えるため生まれた~地域メディアの作り方(第4回)

インターネットでの地域メディアの運営ノウハウを共有することで、さまざまな地域でメディアが立ち上がるきっかけとなることを期待して始めた連載も4回目となりました。

今回は現在さまざまな地域に存在する「既存の地域メディア」の形を紹介するとともに、どんな目的で運営されているのかを考え、自らが立ち上げたり、運営したりする際の参考にしていただければと思います。

「紙」の時代からある伝統的な地域メディアとは

一般社団法人地域インターネット新聞社で編集長をつとめている西村健太郎です。

この連載を読まれている方は、自ら住む町や仕事で通う街、あるいは出身地などで地域メディアやそれに近いような情報発信をやってみたいと思っている方が多いと思います。

今、情報発信をしたいと考えている街やエリアには、既存の地域メディアや、何らかの地域情報を発信をしているインターネットサイトはあるでしょうか。

第2回で触れたように、都道府県には必ず1つは「地方紙」と呼ばれる新聞社こそありますが、市区町村レベルとなると、存在していない街が大半だと思います。

それでもいくつかの街では、「紙」の時代から「新聞」や「フリーペーパー」「雑誌」といった形で今も運営されており、なかにはインターネットのメディアが立ち上がったところもあるでしょう。

今回は、そうした伝統的な地域メディアの形態を紹介するとともに、それらのメディアがなぜ立ち上がり、どんな目的や目標で運営されているのかを考えてみます。

主力は「新聞」と「フリーペーパー」の2種類

インターネットのメディアが生まれる前から存在する“紙”時代の「伝統的な地域メディア」は、以下の2種類に大別できます。

・「新聞」を冠した地域メディア

・フリーペーパーと呼ばれるタウン紙・誌

これらの地域メディアの発行に際しては、次のような目的(目標)があると考えられます。

・「新聞」を冠した地域メディア → 政治・行政(役所)の監視(最終目標:民主主義の監視、地域での影響力強化)

・フリーペーパーと呼ばれるタウン紙・誌 → 商業振興(最終目標:商業や人を通じた地域活性化、広告収入)

地域メディアには、地域の実情や運営主体の考え方によって、多種多様な目的があるため、すべてがそうだとは言えませんが、おおむね「政治・行政の監視」と「商業振興」の2つに大別できるはずです。なかには、どちらもカバーしていることもあるでしょう。

なぜ新聞メディアは政治や行政ばかり追うのか

「新聞」を冠した地域メディアの目的は「政治・行政の監視」と書きましたが、ここに注目する理由は、そこに住む人々のお金(税金)や人が集まり、その使い道を決めているからです。税金を支払っているすべての住民に関係する情報が政治や行政にあるわけです。

そして、お金があれば、その使い道を誰かが決める必要が出てきます。

日本の多くの役所は職員が使途(計画)を考えていますが、最後に決済するのは、住民が選挙で選んだ市長・町長・村長・区長(東京23区の「区長」のみ=選挙で選ばれていない政令指定都市の「区長」に権限はほとんどない)や議員(議会)です。

住民から集めたお金(税金)を何に使うのか、ということを報じるために生まれたのが「新聞」を冠した地域メディアの役割といえます。

だから、政治と行政に関する内容が多くなりますし、ひとたび「選挙」や「政争」が始まると、途端に“興奮”することになります。その勝敗がお金の使い方を左右するからです。

「新聞」を冠した地域メディアの最終目標を突き詰めると、

地域レベルでの「民主主義を守る」「民主主義を監視する」

ということになるでしょう。

ただ、一部には「地域の影響力強化」を第一に狙って運営されているメディアも存在します。それは行政の「お金の使い方」の部分でメディアを通じて影響力を行使したいためで、なかには選挙で対立している候補者がそれぞれに系列の地域メディアを立ち上げているような町も存在しました。

一方、2005年ごろから始まった“平成の大合併”により、かつて3200超あった市町村が現在では1700超にまで減少しています。お金(税金)を集め分配する場所(役所・議会)が極端に減っていますので、「新聞」を冠する地域メディアが活躍できる場も少なくなっているのが現状です。

政治よりも「生活」に密着したタウン紙誌

当初は地域メディアといえば、地元の政治・行政を報じる「新聞」を冠するメディアが主流でしたが、「人々の生活により密着した情報を発信しよう」という目的から生まれたのが主に「フリーペーパー」「タウン紙(新聞のような紙形態)」または「タウン誌(雑誌や冊子形態)」と呼ばれる地域メディアです。

政治に注力する新聞メディアが積極的に取り上げてこなかった分野だったため、新規参入する余地があり、高度経済成長期には、主に女性をターゲットとしたメディアが必要だとの考え方も出てきたようです。

税金の使い道を決める政治・行政は確かに誰もが関係していますが、日常の生活においては「あまり関係がない」と考える人が多いのも実態です。特に都心部では顕著かもしれません。政治・行政に頼ったり、関わったりしなくても、生活するうえではほとんど支障がないからです。

そうした人に向けて、フリーペーパーやタウン紙・誌は、

「生活が便利になる」「生活が楽しくなる」ような情報を伝えることを目的としています。

フリーペーパーやタウン紙・誌の多くは、飲食店や物販店、美容室などのサービス提供店といった“商業”の情報を中心に取り上げています。これは、そこに住む誰もが使える、または使う可能性がある身近な存在だからで、役所とほとんど関わりがない人でも、日々の買物や飲食を行わない人はいないはずです。

こうした情報発信を通じ、読む人と商業者をつなぎ、地域の商業を活性化する、ということがフリーペーパーやタウン紙・誌の目的。

大きな枠組みで言えば、

新聞を冠するメディアが「政治」を伝える目的なら、こちらは「経済」を伝えるのが役割

といえます。

なお、これらのフリーペーパーやタウン紙・誌は、読者から購読料を徴収することが多い新聞メディアと異なり、

多くは「無料」で配布しているため、運営費用のほぼ100%を広告収入に頼るしかありません。

そのため、“メディア”とは言いながらも、掲載内容のほとんどが「広告」となっていることもあります。広告という形態を通じて情報を伝えることを否定しない(できない)のも、フリーペーパーやタウン紙・誌の特徴です。

情報伝達が紙が中心の時代には、対象エリアを拡大したり、制作や取材をシステム化したりすることで業績を伸ばし、株式市場へ上場するまでに成長した地域メディア企業もありますが、グーグルアドワーズ(Google AdWords)に代表されるような低価格のネット広告が人気を得るなかで、フリーペーパーやタウン紙・誌の存在価値をどう出していくのかが課題となっています。

ネット地域メディア界の「コンビニ」的な存在

「紙」の時代から存在する新聞を冠するメディアと、フリーペーパーやタウン紙・誌に加え、インターネットで展開する地域メディアも各地で多数生まれています。

そんななかで、「経済」を伝えるものとして大規模かつ著名なのが、2000年に東京・渋谷の「シブヤ経済新聞」から始まった「みんなの経済新聞ネットワーク」です。

全国100を超える地域・エリアで「◎◎経済新聞」と名付けた地域のネットメディアを展開しています。

これらは、各地域でさまざまな事業を営む企業や団体(たとえば、IT関連や編集関連の事業など)がフランチャイズ運営者として同ネットワークに加盟し、記事や編集、サイトのデザインなど一定のレベル(水準)を保った形で情報発信を行っています。どの地域も美しいデザインのサイトであり、記事の書き方も一般の新聞とほぼ同様です。

みんなの経済新聞ネットワークのサイト

メディア名に「経済」と冠しているように、政治や行政よりも商業に関する情報発信に重きを置き、特に「ジャーナリズム」的なネガティブな記事は一切載せない、という方針です。

また、「紙」の世界におけるフリーペーパーやタウン紙・誌とは若干異なり、広告ではない一般の記事が多いことが特徴といえます。

そのため、フリーペーパーやタウン紙・誌にありがちな有象無象の広告密集による“どぎつさ”はありません。

フランチャイズとして加盟している地域の事業者は、“本部”に加盟料的なお金を支払うだけでなく、広告収入はそれほど期待できず、運営に関する人員も時間も割かねばならないということになりますが、その高い知名度を生かし、情報収集や発信を通じて、地域に住む人と接点を作ることができます。

“本業”ではあまり著名とはいえない企業であっても、自社で書いた記事が「ヤフーニュース」にも配信されますので、「みんなの経済新聞をやっています」と言えば、地域内でそれなりの注目を浴びるというメリットが得られます。

また、

メディア運営のノウハウがなくても、ある程度のレベルまでは引き上げてくれる

という点も見逃せません。地域メディアをゼロから立ち上げ、安定運営するまでの苦労を大幅に軽減できることは、セブンイレブンやファミリーマート、ローソンといった大手コンビニチェーンの加盟店にも似ています。

一方で、大手コンビニがそうですが、地域の実情を反映させたり、運営者の特色を出したりといったことがしづらい側面もあり、独自性を追求することが難しい点は、デメリットといえます。

また、同メディアでは

「ビジネス」と「カルチャー」に特化し、なかでも“グッドニュース”を扱うのが基本方針

であるため、メディアを通じて地域の課題について議論したり、考えるきっかけを作ったり、といった目的・目標がある場合には、加盟するのは適切ではないといえそうです。

既存メディアから自らの立ち位置や目標を考える

今回は、「新聞」や「フリーペーパー」「タウン紙・誌」といった紙の時代からの伝統的な地域メディアと、ネット時代の大規模地域メディアグループである「みんなの経済新聞ネットワーク」をご紹介しました。

これらの地域メディアは、いずれも「政治(行政)」と「経済(商業や人)」という2分野のなかで、情報発信しているのが特徴です。

自ら地域メディアを立ち上げて運営を行う際は、

身近にある既存メディアの立ち位置や目標を認識

することが大事で、それらに沿っていくのか、あるいは折衷的な立ち位置とするのか、または政治や経済とはまったく無縁の位置で運営するのかなどを、一度考えてみる必要があるでしょう。

身近に地域メディアがない、あるいは気づかない場合は、「◎◎(地域名)フリーペーパー」や「◎◎(地域名)新聞」「◎◎(地域名)ニュース」などで検索してみてください。実はこんなメディアがあったのか!と驚くことがあるかもしれません。

(※)本連載に関するご質問やご意見はこちらからお気軽にお寄せください