「地域メディア」とは一体何なのか?(定義や対象エリアの考え方)~地域メディアの作り方(第2回)

インターネットでの地域メディアの運営ノウハウを共有することで、さまざまな地域でメディアが立ち上がるきっかけとなることを期待して始めた連載。第2回は「地域メディアとは一体何なのか」というテーマで書いています。

「都道府県の全域」を対象としないメディア

一般社団法人地域インターネット新聞社で編集長をつとめている西村健太郎です。今回は「地域メディア」とは一体何なのかというテーマです。

これは意外と難しいテーマですが、メディアとしてもっとも歴史の長いメディアである「新聞社」(紙)がニュース取材や販売の対象としているエリアを例に考えてみましょう。

日本にはさまざまな新聞社があり、「全国紙」と呼ばれているのは「読売」「朝日」「毎日」「日経」「産経」などで、これらを地域メディアと呼ぶ人はまずいません。

このほか、「ブロック紙」と呼ばれる比較的広いエリアを対象とした新聞社に「中日(東京新聞も含む)」「北海道」「西日本」があり、このほか「地方紙」と呼ばれる新聞が各府県ごとに存在します。これらも地域メディアと呼ぶ人はほとんどいないでしょう。

「全国紙」「ブロック紙」「地方紙」のなかでもっとも狭いエリアを対象としているのが、一つの都道府県内を対象としている「地方紙」です。そこから考えると、「地域メディア」は地方紙よりも狭いエリアを対象としたもの。“都道府県の全域”を対象エリアとしないメディアのことだと言えそうです。

たとえば、「浅草新聞」「千代田区ニュース」「なんば新聞」なんていう名だったら、いかにも地域メディアという感じがしませんか?

つまり、都道府県のような広いエリアではなく、自治体やひとつのまとまった地域を対象としたメディアは、すべて地域メディアと呼んで間違いはないでしょう。

政令市のような広すぎるエリアは除外

地域メディアは「自治体やひとつのまとまった地域を対象としたメディア」という広い定義を示しましたが、実際に地域メディアを作るにあたっては、対象エリアをいかに決めるかが大事になります。

「横浜市」はいち自治体とはいえ、
全域を対象とするのは
広すぎて地域メディアになじまない
※横浜市IR説明会資料
「横浜市の市政と財政運営」より

たとえば、横浜市はひとつの自治体ですが、人口が370万人もいて、市のなかに行政区と呼ばれる“簡易的なまとまり”(選挙で選ぶ代表者や議会がないので個人的には「仮想自治体」と呼んでいます)が18区もあり、それぞれで10万から30万人程度が住んでいます。面積も18区合わせて山手線内側の6倍近い規模に及びます。

これほど広いエリアを対象としたメディアは、「地域メディア」というより「地方メディア(地方紙)」のレベルです。

このエリアで真剣に運営するならば、よほど資金力やノウハウがある企業でない限り、読まれるメディアを作るのは難しいですし、広すぎて各地域で求められる情報が異なりすぎるため、“地域メディア”の対象とするには適切ではないといえます。

大阪市や福岡市、北九州市、名古屋市、川崎市、仙台市、札幌市といった大規模な政令都市も同様です。1~2の行政区をエリアとするのが適正と考えられます。

つまり、地域メディアの定義は「政令都市のような大きな自治体を除き、自治体やひとつのまとまった地域を対象としたメディア」ということになるでしょう。

「メディア」の定義は意外と単純

ここで「メディア」という言葉について考えてみます。

この連載でにおけるメディアとは、「テーマに沿った情報発信を行っている紙やインターネットサイト」という程度の意味で使っています。

つまり、“地域”に関する何らかの情報を定期的に発信し、一般に配布や公開をしている紙やインターネットのサイト・ブログ・SNSはすべて地域メディアということになります。

ただし、地域とまったく関係のない内容の発信やつぶやき・投稿が大半を占めていたり、自社や店舗・商品などの情報やPRのみを発信していたりするなどの“自分メディア”“企業メディア”(チラシ類も含む)は、地域メディアとは呼べないと判断し、ここでは対象としていません。

地域メディアが対象とすべき範囲とは

それでは、地域メディアの定義を「(政令都市のような大きな自治体を除き)自治体やひとつのまとまった地域を対象としたメディア」として、情報発信の対象となりうる範囲(エリアの分け方)を検討してみると、以下のような区分が考えられます。

1.市区町村(政令市の行政区を含む)の範囲
2.都市部の著名な町名など「ひとつのまとまり」として認識されている範囲
3.鉄道やバスなどの「沿線」としての範囲
4.「郡」や「駅」など生活圏が似ている範囲
5.中学校校区や小学校校区(通学圏・校下)の範囲
6.町内(町内会・自治会)や商店街などの範囲
7.マンションや団地群などの範囲

 

以上7つの分け方について、地域メディアを運営するという前提で、それぞれのメリットやデメリットを考えてみました。

1.市区町村(政令市の行政区を含む)の範囲
まさに地域メディアの「王道」といえる区分方法で、日本の各地に点在する中小地域メディアのほとんどが行政単位を対象エリアとしています。それだけメリットが多いといえます。
メリット
・自治体名は多くの人に認識されているので分かりやすい
・“予算・権限・情報”が一カ所のエリアに集約されているので、それらを収集しやすい
デメリット
・行政が決めた範囲なので実際の生活・文化圏とは異なる場合がある(特に都市部)。また、政令都市内の「行政区」は自治体ではないので予算・権限や情報が少ない
・周辺部にある他自治体の情報を扱いづらくなる(ただし、対象エリアとする自治体より小規模な場合はあまり問題はない)

 

2.都市部の著名な町名など「ひとつのまとまり」として認識されている範囲
これはインターネットで全国展開するメディア「◎◎経済新聞」(みんなの経済新聞ネットワーク)がよく取り入れている区分で、たとえば「新宿」や「心斎橋」や「栄」や「天神」や「すすきの」など、都市のなかにある著名度の高いエリアを対象とするものです。
メリット
・比較的狭い範囲であるにもかかわらず昼間人口(通勤・通学者)が密集しているので情報収集や取材がしやすい
・明確な範囲が決まっていないエリアも多いので、周辺部の情報も扱いやすい
デメリット
・自治体をまたいだり、他の街との境界があいまいだったり、広域・狭域すぎたりするケースもあるので情報収集しづらい場合がある
・大部分を占める昼間人口にフォーカスしたメディアとせざるを得ないため、読者層に偏りができる(地元住民に浸透させづらい)

 

3.鉄道やバスなどの「沿線」としての範囲
鉄道会社や関係広告会社などが運営するメディアによく見られる区分です。長い路線の場合は、対象人口が多くなって情報が薄くなる懸念もあります。「江ノ電沿線」(藤沢市・鎌倉市)や京都の「嵐電沿線(京福電鉄)」(大半が京都市右京区)、名古屋の「あおなみ線」(名古屋市中川区や港区が中心)のようにそれほど路線が長くなく、1~2の自治体エリア内で収まるような鉄道路線なら適しているかもしれません。
メリット
・路線(鉄道)名が定着している場合は比較的範囲が分かりやすい
・対象人口・エリアが大きくなるため情報が豊富にある
デメリット
・路線が通る全自治体を対象とするのか否か、どこまでの範囲(例:駅から10分以内の範囲など)をカバーするのかなど、読者に分かりづらさが残る
・対象とするエリア(人口)が大きくなりすぎて情報が薄くなる可能性が高い。また中心駅に情報が偏りがちになる

 

4.「郡」や「駅」など生活圏が似ている範囲
これは名前の付け方が鍵になりそうで、たとえば東京都にある「西多摩」(青梅やあきる野、福生ほか)や大阪府の「北河内」(守口や枚方、寝屋川ほか)などは比較的知られた範囲ですが、一般的に「◎◎郡」というエリア名はそれほど知名度は高くないように思われます。また「駅名」の場合は、どのあたり(例:駅から10分以内の範囲など)を対象とするかを決める必要がありそうです。
メリット
・緩さを含んだ範囲なので周辺エリアまで情報収集の対象を広げやすい
・「駅名」「地域名(著名な場合)」は周辺の多数に知られていることが多いので地域をイメージしやすい
デメリット
・自治体をまたいだり、他の街との境界があいまいだったり、広域・狭域すぎたりするケースもあるので情報収集しづらい場合がある
・郡部などでは、自治体の規模が似ていると近親憎悪的な面から仲が悪いこともあり、メディア名の付け方によっては運営時に余計な気をつかうこともある

 

5.中学校校区や小学校校区(通学圏・校下)などの範囲
まさに「ご近所メディア」という対象範囲ですが、都市部では複雑な校区が設定している学校も多く、また身近に子どもがいない人には認識されづらい面もあります。運営者が学校区内に居住・通勤しているか、卒業生であることも重要です。
メリット
・比較的狭い範囲を対象とするため情報収集がしやすい
・学校が地域のコミュニティ拠点となっている場合もあるので、卒業生などのネットワークを活用しやすい
デメリット
・校区という範囲が分かりづらい場合や生活圏が一致していない地域もあり、校区を少しでも外れると学校との縁が薄くなる
・対象人口がそれほど多くないので情報量も読者数にも限界がある

 

6.町内(町内会・自治会)や商店街などの範囲
町内会や自治会、商店街組合などがメディアを行う場合は最適な区分ですが、対象人口や範囲が狭くなりがちな面もあります。運営者自身が居住や通勤をしていない場合は、運営のハードルが高くなります。
メリット
・町内会・自治会・商店街はエリアが比較的分かりやすいうえ、狭い範囲なので情報収集がしやすい
・生活・文化圏が類似していることが多いため、運営者も読者も違和感が少ない
デメリット
・町内会・自治会・商店街の規模によっては区分けが意味をなさない場合がある。(町内会・自治会・商店街は過去の経緯などから、部外者には理解できないような形で小分割が行われている組織もあり、しかも近接地域で非常に仲が悪いことがある)
・対象範囲が広くないため、情報量も読者数にも限界がある

 

7.マンションや団地群などの範囲
顔の見える範囲に住んでいる人を対象とするだけに、コミュニティの構築や活性化という面では大きな役割を担えることがあります。当然ながら運営者自身が対象エリア内に居住している必要があるでしょう。
メリット
・マンションや団地などは住んでいる人の顔が見えやすくニーズもつかみやすい
・管理組合や自治会などコミュニティの活性化にも役立つ(協力を得やすい)
デメリット
・読者と運営者の距離が近すぎるため、情報収集に工夫が必要(さまざまな面で気をつかう必要がある)
・管理組合や自治会などでは役員が変わると運営しづらくなったり、情報が得づらくなる場合もある

 

以上、地域メディアの対象とするエリアの区分け方法について検討してみましたが、ようはメディアの名前を見聞きしただけで、読者の人が一瞬でエリアをイメージできるようにすることが大事です。

たとえば「京橋エリアニュース」という名前を付けたとします。古くから東京に住む人(現在の銀座付近はかつて「京橋区」だった)や銀座線の京橋駅を使っている層はパッと理解できるかもしれませんが、多くの人には分かりづらいですし、関西の人が見たら大阪環状線と京阪電車などの乗り換え駅を想像してしまい、インターネット上で誤閲覧が増えるでしょう。

特にインターネット上では、キーワード検索だけで読み手側が都道府県など簡単に越えてしまうので注意が必要です。

地域の文化や生活圏をはじめ、自らの土地勘や情報収集先との関係性、メディアの目標などを総合的に考えたうえで対象エリアを絞り、適切なメディア名を付けることが大切です。

このあたりについては、「メディア名の付け方」の項目でも別途、触れていきたいと思います。

(※)本連載に関するご質問やご意見はこちらからお気軽にお寄せください