インターネットでの地域メディアの運営ノウハウを共有することで、さまざまな地域でメディアが立ち上がるきっかけとなることを期待して始めた連載。第3回は「地域メディアを紙で作るか、ネットで作るか」というテーマを考えるとともに、紙で地域メディアを作る際のメリットやコストについても検討してみます。

「紙」「ネット」のどちらを選ぶかは重要

一般社団法人地域インターネット新聞社で編集長をつとめている西村健太郎です。

今回は地域メディアにおける“紙・ネット論争”に触れながら、あえて「紙」の作り方についてもコスト面からご紹介します。

私たちは「地域インターネット新聞社」なる団体名を冠していますので、基本的にはネットによる地域メディアを志向していますが、紙による情報発信を否定しているわけではありませんし、実際に行っていたりします。インターネットだけでは、多くの人に情報を伝えるのは難しいからです。

メディアは紙がいいのか、ネットがいいのか、という“紙かネットか論争”はもう何年も続いてきたテーマです。IT業界のなかでも特にネット業界に所属していてたり、関係していたりする人からすれば「何を今さら・・・」と驚くことでしょう。

しかし、“地域”という世界で情報発信を行っていく以上、2018年時点ではまだまだ「紙」か「ネット」かという“プラットフォーム”選びは重要な検討テーマです。

コスト面から「紙」の利用は今後減っていくのは間違いないのですが、今も役所などの公的機関が「紙」でしか手続きが行えなかったり、広報面でも「紙」を中心に行われていたりするのは、“地域”という世界の現状を現しているといえます。

地域にはネットを使えない、または使いたくない人が一定数いることや、役所側もネット化に対応できていないからです。自治会や町内会なども同様に情報伝達の手段は「紙」が主体であるはずです。ビジネス現場とは違い、地域のなかで生活しているとネットがそれほど浸透していないと思うことも多いのではないでしょうか。

読者はどちらを望んでいるのか?

紙かネットかを考える際の視点として、一つの例を示します。

東日本大震災が起こった2011年前後のことです。米国で流行していたアマゾンなどの「電子書籍」が日本に上陸するかしないかということで、大騒ぎになっていた時期があります。

「日本の活字文化を破壊するのか!」「いや、電子書籍で新たな表現方法が広がるはずだ」「米国の“黒船”(アマゾン)を前に日本企業は団結を」などなど、メディアや出版業界、さらには作家や知識人、IT業界も交えてさまざまな意見が噴出しました。

私はそんな状況を取材する側として2年ほど状況を注視し、さまざまな意見を傾聴していたのですが、ある時、著名書店チェーンの社長が発した言葉で目が覚めました。

紙であれ、電子(ネット)であれ、わたくしどもはお客さまの読みたい形“本”を提供することが使命です

紙かネット(電子)かという論争は、情報の提供者側(出版社・メディアやIT企業など)から見た議論であって、読み手側の都合はあまり考えていないのではないか、ということに気づかされたのです。

つまり、地域メディアを立ち上げるにあたっても、情報を発信する側による“紙かネットか”という議論よりも、情報を受ける側(読者)の都合(嗜好や環境)に合わせることがもっとも大事なのではないかと思います。

ネットでは伝わりづらい65歳以上の層

地域メディアを立ち上げる際は、まず読者(読み手)の顔を想像してみてください。

インターネットの利用者数
及び人口普及率の推移
平成29年版 情報通信白書より)

たとえば、60歳以上の人々を対象とした地域メディアを作りたいなら、ネットでの発信だと若干難しいかもしれませんし、都市部か地方部かなど対象とするエリアによっても事情は異なることでしょう。

国が出している「情報通信白書」という統計によると、人口に対するインターネットの普及率は2016年には83.5%に達し、10年前から10%以上伸びていて、今やほとんどの人がネットを使う世の中になったようです。

それでも、年齢層別のインターネット利用率を見ると、60歳から64歳までの層は83.3%ありますが、65歳以上では69.4%になり、70歳以上だと53.5%と半分まで低下、80歳以上では23.4%にまで急落します。

20歳~29歳の層では99.2%がネットを使っていることに比べると、65歳以上の層では、まだネットを使っていない人が多いことがわかります。統計には表れていませんが、都市部か否かによっても数値が異なることでしょう。

年代別のインターネット利用率
(平成29年版 情報通信白書より)

ネットの利用率が低い傾向のある世代の人に情報を伝えようとする場合、ネットで情報発信をしても、なかなか伝わりづらいのが現状です。

そうであるならば、「紙」という選択肢も捨てきれません。なにより、地域の“重鎮”“顔役”と呼ばれるような人は65歳以上に多いので、そうした人に情報を伝えるならば、「紙」を選んだほうが確実といえるでしょう。

また、紙には「地域メディア」という特殊な事情にも対応できる強みがあります。それは「情報が地域外に漏れづらい」という点です。

ネットの場合は、検索エンジンで引っかかる(探す)ことにより、対象とする地域外の人に読まれることも多く、なかには不要な「営業」のターゲットとして使われたり、思わぬ形で個人情報が漏れたりする可能性も高くなってしまいます。

「紙」の場合は、配布する対象者をある程度は絞れるため、不必要な人(招かざる人)に情報を伝えたくない、という場合にも適しています。

「紙」の発行コストはネットの数倍以上

この連載は、インターネットでの情報発信を行うノウハウをお伝えするために書いていますが、今回はあえて「紙」という手段で情報発信を行う方法を考えてみましょう。

以下、「紙」の話が続きますので、ネットでの情報発信を考えている方は、飛ばして次の連載項目を見ていただいてもかまいません。ネットだけでなく「紙にも興味がある」という方はぜひお読みください。

人件費や手間(時間)というコストを考えなければ、ネットでの情報発信にかかる費用は、無料サービスを使えば0円ですし、独自でドメイン(http://●●●.comのようなアドレス)を取っての運営でも月に1000円程度の予算があれば足りますが、紙メディアを作る場合は、最低でもその数倍のコストがかかることは覚悟しておかねばなりません。

まずは「印刷費」です。

今流行の「ネット印刷(インターネット上だけで取引が完結する印刷事業者)」を使ったとして、

A4サイズ・白黒・片面:200部
※光沢コート紙、73kg、7営業日以内発送、業界大手「プリントパック」で2018年1月現在の調査

という条件で印刷するならば印刷料金は税込み1300円となり、片面カラーでも税込み1360円です。
(※なお、100部程度の白黒印刷の場合は、写真の精度を考えなければ、ネット印刷よりもコピー機で印刷したほうが安くなります)

たとえば上記条件でA4・1000部を「両面カラー」で印刷しても税込4120円です。5000部になったとしても税込8400円ですから、

「A4・両面カラー」で5000部をネット印刷に発注するなら、おおむね1万円あれば足りる

ということになります。紙のサイズを倍の「A3サイズ」に変えても、1万円あれば2000部までの印刷が可能です。

ネットでの情報発信と比べると、格段にコストはかかってしまいますが、1万円あれば「A4サイズで5000部までの両面カラー印刷が可能」と覚えておくと良いかもしれません。

ただし、ネット印刷は安いだけあって、入稿する際は若干面倒なルールや分かりづらさがあり、データに失敗があってもすべて「自己責任」となります。

業者のなかにはサポート電話があってもほとんどつながらないなど、利用者責任の姿勢を徹底していますので、この点はご注意ください。また、ネット印刷業者によって印刷価格が異なります。

版下データはテンプレ使ってワードで作れる

次は印刷時に使ういわゆる「版下」(印刷データ)の作り方について考えてみます。

かつては「イラストレーター(Adobe Illustrator)」や「フォトショップ(Adobe Photoshop)」といった専門的なソフトを使えないと作るのが難しかったのですが、現在ではマイクロソフトの「ワード(Microsoft Word)」または「パワーポイント(Microsoft PowerPoint)」など、一般的なオフィスソフトが使えればそれほど難しいことではありません。

ネット印刷の多くが「ワード」や「パワーポイント」でも入稿ができるようになっているためで、ワードやパワーポイントのデータに未対応であっても、ファイル(データ)を汎用的な「PDF形式」で保存すれば、だいたいどこの印刷所でも対応してくれるはずです。

また、“白紙”の状態から版下を作るのは難しい場合でも、ネット上では多数の「テンプレート(見本データ)」が無料で提供されており、ダウンロードすれば自由に使えます(例:マイクロソフトリソー)。

つまり、紙のメディアと言っても、それほど大掛かりなものでなければ、

ワードかパワーポイントが使え、テンプレートを活用・改良できるような力があれば、“紙のメディア”を作るのはそれほど難しくはない

ということがいえます。

もちろん、身近な場所にある印刷屋(プロ)に版下を作ってもらう、いわゆる“丸投げ”できるだけの余裕(資金)があるようでしたら、そちらの方が楽に美しく仕上げられることは間違いありません。

「紙メディア」で最大のネックは配布方法

「紙」の地域メディアを作るのは難しくはなくなったとしても、一番のネックとなるのが、印刷した後の「紙」をどうやって読者に届けるのかという部分です。

もし町内会や自治会、その他のコミュニティ(会合など)で一括配布できる環境にあるようでしたら、配布の面で心配することはないでしょう。

また、店舗などで配布できたり、自ら配り歩ける環境にあったり、配り歩いてくれる人(例えばルートセールスなど)がいたりすれば、こちらも問題はないはずです。

そうした環境下にない場合は、別途「新聞折り込み」や「ポスティング」「郵送」などを使うことになります。

新聞折り込みか、ポスティングか、郵便か

新聞折り込みは、おおむね「B4サイズ」までで1部あたり3円超~5円超(地域によって異なる)がかかります。最近では「ネット印刷+新聞折り込み」がセットになったようなサービス(一例)もありますが、基本的には自分で配送物を新聞販売店へ持ち込むか、送らなければなりません。

また、新聞の購読者が年々減っている状況を考えると、紙を届けられる人は限定されてしまうことになります。(逆に「年齢層が高く、知識を吸収したい層」が読んでいると考え、読者を絞ることもできます)

全戸配布を行っているような「ポスティング業者」も多数ありますが、業者や地域、配り方によっては、新聞折り込みよりも若干高くなっているケースが目立ちます。なにより、業者の数が多いので「本当にこの会社は大丈夫か?」「ちゃんと配ってくれるのか?」という心配も生じるでしょうから、最初は業者選びに時間がかかりそうです。

郵送に関しては最低でも1通82円(25グラムまで)と高いコストがかかりますし、さまざまな条件をクリアして「第三種郵便物」として認められた場合でも1通41円または62円(50グラムまで)が必要です。

コストをかけずに「紙を届ける」ことが最重要

印刷の面では「ネット印刷」のように“IT革命”で価格が下がって便利になったのですが、配布・配達の分野では、IT化の恩恵を受けていないどころか、ヤマト運輸の例に見られるように、モノを売る際のIT化によって配る荷物が爆発的に増えてしまい、逆に人手不足で料金を値上げしなければならないような状況です。

同様に、これまでの歴史で郵便料金は高くなることはあっても安くなることはありませんでしたし、新聞販売店もこの先、購読部数を増やすことが期待できないため、折り込み料を上げざるをえない状態になるかもしれません。

100%人の手に頼らなければならないポスティング事業者も状況はあまり変わらないはずです。

今のところ、IT化の進展によって配送・配達料が格段に安くなることは考えづらい状況ですので、“コストをかけずに紙を届ける”という課題を解決できるならば、紙による地域メディアも決して難しいものではない、ということがいえます。

(まとめ)「紙」のメリットとデメリット

以上、ここまで「紙」でメディアを作ることの利点やコストを考えてきました。

紙で発行する「メリット」をまとめると以下のような点が挙げられます。

ネットを利用しない割合が高い「65歳以上の層」にも読んでもらえる可能性が高い(特に街の有力者が65歳以上が中心の場合は効果的である)
ネットと違ってリアルに“モノ”があるので、誰にでも手渡すことができ、人が多く集まる場などでは認知させやすい(逆に手渡す人を絞れるので、地域(対象)外の人には内部情報や個人を特定されそうな情報などを伝えなくて済む)
近年は「ネット印刷」の活用でコストを下げることができ、パソコンの汎用ソフト「ワード」を使えれば版下(印刷データ)づくりも難しくはなくなっている

 

紙で発行することの「デメリット」は以下のようになるでしょう。

インターネットより格段にお金がかかる
版下(印刷データ)の作成や印刷所への入稿などに手間がかかるうえ、一定の知識が必要である
容易に配布できるような環境がない場合は、折り込みや配布料などで多大な費用がかかる

 

ここまでしつこく「紙」のことを書いたのは、ネットの情報発信だけだとどうしても浸透できない層があったり、知名度の向上ができなかったりするためで、その際に「紙」での発信も検討してほしい、という意図があります。

私たちもある段階で「ネットの限界」を感じ、現在も時に「紙」を併用して情報を伝えています。特に60代以上の“街の顔役”といえる人たちに媒体を知らしめるうえでは、大きく役立っています。

あまり知られていませんが、ITの世界企業である「グーグル」も、検索連動型広告(アドワーズ)を日本で浸透させるため、大量の割引券付きチラシを配布していたりします。あのグーグルでさえもネットだけでは届かない層があるのです。

ネットメディアを中心に運営しながらも、時には“予算”と相談のうえで、紙を使ってメディアの浸透を図ることは、決して無駄ではないと思います。